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名古屋地方裁判所 平成6年(ワ)1199号 判決

名古屋市〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

岩月浩二

矢野和雄

東京都千代田区〈以下省略〉

被告

新日本証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

小川剛

村橋泰志

木村良夫

主文

一  被告は、原告に対し、二七三万一七二五円及びこれに対する平成二年一月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、三〇三万一七二五円及びこれに対する平成二年一月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二事実関係

(請求原因)

1  当事者

(一) 原告は、昭和五年○月○日生の女性であり、一時実家の呉服の行商を手伝ったことがあるが、昭和五〇年頃からは無職で家庭の主婦である。ワラントの取引は、後記2(一)のマツヤデンキのワラントのそれが最初である。

(二) 被告は、証券業を営む株式会社である。

2  ワラントの取引

原告は、被告の従業員であるB(以下「B」という。)の勧誘により、(一)昭和六三年八月一九日頃、外貨建てのマツヤデンキのワラント一〇枚を購入し、同月二三日、その代金として一二三万六七二五円を支払い、(二)平成二年一月二六日頃、長男であるC名義を借りて、新日本製鐵のワラント五枚を購入し、同日その代金として一一九万五〇〇〇円を支払った(以下、順次「本件(一)又は(二)の取引」といい、場合により、これらの取引を「本件ワラントの取引」又は「本件各取引」という。)。

3  被告の不法行為責任

本件ワラントの取引は、次のとおり被告従業員の違法な勧誘行為及び取引行為によるものである。

(一) 説明義務違反

ワラントは、新株引受証券であり、外貨建てのものと円建てのものがあり、外貨建てのものは為替相場の変動による危険性があり得ること、ワラントには権利行使期間があり、期間が過ぎると無価値となり、紙屑となること、権利行使価格も決められており、権利行使のためには代金を払い込む必要があること、権利行使価格は発行時の株式価格よりも高く決められており、株式の時価が権利行使価格以上に値上がりしないと、権利行使の意味がないこと等の特性があるから、証券会社の従業員が、ワラントの取引を勧誘する場合には、これらの特性を説明し、ワラントの仕組みと危険性について十分理解させるべき注意義務がある。

しかるに、Bは、原告に対し、本件ワラントの取引を勧誘するに当たって、右の説明をしなかった。

(二) 虚偽若しくは誤解を生ぜしめる表示

平成四年改正前の証券取引法五〇条一項五号、証券会社の健全性の準則等に関する省令一条一号は、有価証券の売買に関し虚偽の表示をし、若しくは誤解を生ぜしめる表示をすることを禁止しているところ、Bは、原告をして本件ワラントが満期に償還されるべき債券と誤信せしめる言動した。

(三) 断定的判断の提供

証券取引法五〇条一項五号は、有価証券の売買に関し、有価証券の価格が騰貴することの断定的判断を提供して勧誘する行為を禁止しているところ、Bは、原告に対し、短期間に利益が出ると述べて、あたかも絶対に儲かるかのような言動をして、本件ワラントの取引を勧誘した。

(四) 適合性の原則違反

原告の投資経験、資力、投資に関する知識等に照らせば、Bが原告に対しワラントの取引を勧誘した行為は、「投資家に対する投資勧誘に際しては、投資家の意向、投資経験及び資力に最も適合した投資が行われるよう十分配慮すること、特に証券投資に関する知識・経験が不十分な投資者及び資力の乏しい投資者に対する勧誘については、より一層慎重を期すること」と定められた大蔵省証券局長から日本証券業協会宛の昭和四九年一二月二日付通牒(蔵証二二一一)に違反する。

右(一)ないし(四)によれば、本件各取引についてのBの勧誘行為は、民法七〇九条の不法行為を構成し、その使用者である被告は、民法七一五条により、Bの本件不法行為により原告が被った後記損害を賠償すべき義務がある。

4  損害

(一) ワラント購入代金

原告は、Bの右3(一)ないし(四)の行為により、ワラントの仕組やワラントが権利行使期間経過後無価値になること等の危険性も知らず、ワラントが満期に投下資金に対する償還がなされる債券であると誤信して、その代金合計二四三万一七二五円を支払ったものであるから、同額の損害を被った。

(二) 慰藉料

Bの本件不法行為により原告の被った精神的苦痛に対する慰藉料は、三〇万円とするのが、相当である。

(三) 弁護士費用

原告は、本件原告訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、その弁護士費用のうちBの本件不法行為と相当因果関係のある損害は、三〇万円とするのが相当である。

5  結論

よって、原告は、被告に対し、本件損害金合計三〇三万一七二五円とこれに対する最終の本件不法行為の日である平成二年一月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(請求原因に対する認否)

1  請求原因1(一)の事実中、本件のマツヤデンキのワラントの取引が、原告にとって、初めてのワラントの取引であったことは認めるが、その余は争う。原告は、豊富な投資知識及び経験を持ち、数千万円規模の資金を証券取引で運用するセミプロ的投資家である。同(二)の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3(一)  同3の事実は全て争う。

(二)  被告の積極主張

(1) Bは、マツヤデンキのワラント購入を勧誘するに当たり、昭和六三年七月二二日頃、原告の自宅で、銀行研修社発行の「最新金融商品ハンドブック」八八年版の「ワラント債」の部分のコピーとワラントに関する新聞記事のコピー等を原告に渡した上、原告に対し、ワラントとは、一定期間内に一定の価格で一定の数量の株式を買うことができる権利が付与された証券のことをいい、具体的にいうと、新株引受権付社債の発行後にワラント部分と社債に分離されたワラント部分をいうこと、ワラントの価格は、理論上、株価に連動するが、変動率は株価に比較して大きくなる傾向があり、株式を購入して売買するよりも投資効果を享受することもあるが、値下がりも激しいこと、ワラントには権利行使期間があり、それが終了してしまうと無価値になってしまうこと、海外のドル建て商品であるため、為替の影響を受けること等を説明した。同年八月一五日には、マツヤデンキのワラントの権利行使価格が二二六六円であり、権利行使期間が西暦一九九三年八月四日まであること、本件(二)の取引を勧誘した時にも、再度本件(一)の取引を勧誘した時と同様に、ワラントは期限がある商品であり、権利行使期間が終了してしまうと無価値になってしまうこと、価格は株価に連動するが、株式よりも値段の動きが激しいことなどを説明した。

また、Bは、平成元年五月頃、確認書を徴求するため、原告宅を訪問した際、原告からワラントの説明を求められたので、再度同様の説明をし、マツヤデンキのワラントの権利行使期間等を説明した。

Bは、新日本製鐵のワラント購入の勧誘に当たり、平成二年一月二三日、原告宅を訪問し、原告に対し、前同様の説明のほか、海外ワラントと国内ワラントとの違い、新日本製鐵のワラントの権利行使期間等を説明した。

そのほか、Bは、マツヤデンキのワラントについては一週間に一度程度、新日本製鐵のワラントについても一週間に一度以上、その値動きを原告に連絡し、マツヤデンキのワラントについては、平成元年九月及び一二月にそれぞれ原告に対し利食いを勧めたが、原告は、様子を見ると言って、売却に同意しなかった。

(2) 原告は、本件(一)の取引の目的であるマツヤデンキのワラントを購入した昭和六三年八月中旬頃、約七二〇〇万円の証券取引を行い、その後も常時七〇〇〇万円から一億円前後の資金を証券取引において運用し、儲かりそうな情報を提供してくれる証券会社を選別して、常時三、四社の証券会社と平行して取引をし、情報源は抱負であった。また、原告は、平成三年九月二五日、大和証券から、塩野義製薬のエクスワラント(ワラント債)を買い付けているから、少なくとも右の当時において、原告は、ワラントの危険性を認識し、より安全なエクスワラントを選択して投資したものと考えられる。

4  同4の事実は争う。

第三当裁判所の判断

一1  甲第一一号証及び原告本人尋問の結果によれば、(一)原告は、昭和五年○月○日生の女性であり、愛知県立の高等学校卒業後洋裁学校に入学して勉強し、同校卒業後二年間程洋裁店に勤めた後三年間程自宅で仕立ての内職をしていたが、その頃結婚して、いわゆる専業主婦となったこと、(二)結婚後、原告は、養親が病気の時に一時期養親の呉服の仕事を手伝ったことがあったが、昭和五〇年頃からは主婦の仕事に専念し、本件各取引の当時は、高校教師の夫と養母との三人暮らしをしていたこと、(三)原告は、本件各取引より前株取引の経験があったが、原告の家庭は普通のサラリーマン家庭であり、株その他の金融商品の取引について格別詳しい知識があったわけではなく、また、高い危険を犯してまで高収益を得ようとする考えはなく、そのような資金の運用はしてこなかったこと、(四)原告の夫は、全く株取引には関わってはいなかったこと、(五)被告との取引については、担当者がBになった昭和五九年一月頃からは、Bの勧めに従って行うことが多かったこと、(五)原告にとって、本件(一)の取引が初めてのワラントの取引であり、当時ワラントについての知識もなかったこと、以上の事実が認められ、乙第一四号証及び証人Bの証言中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない(右認定事実の一部については、「第二 事実関係」欄記載のとおり、当事者間に争いがない。)。

もっとも、被告は、原告が豊富な投資知識及び経験を持ち、数千万円規模の資金を証券取引で運用するセミプロ的投資家であるとか、儲かりそうな情報を提供してくれる証券会社を選別して、常時三、四社の証券会社と平行して取引をしていたと主張するが、乙第一ないし第四号証の各証、第二七ないし第三一号証等の客観的証拠によっても、そのように断定するに足りず、かえって、右各証拠と原告本人尋問の結果を併せ考えると、原告は、当初投資信託、転換社債等の危険性の少ない金融商品の取引をしていたが、Bが被告における原告の担当者となった頃から、Bの勧めにより、株取引を行うことが多くなったものと認められる。

2  被告が証券業を営む株式会社であることは、当時者間に争いがない。

二  被告の従業員であるBの勧誘により、原告と被告との間に、昭和六三年八月一九日頃、マツヤデンキのワラントを目的とする本件(一)の取引が、平成二年一月二六日頃、新日本製鐵のワラントを目的とする本件(二)の取引(ただし、長男のCの名義を借用)がなされ、原告は、被告に対し、それぞれその頃代金(合計二四三万一七二五円)を支払ったことは、当時者間に争いがない。

三  ところで、甲第八号証、第一〇号証、乙第九号証、第一〇号証、第一三号証並びに弁論の全趣旨によれば、ワラントには次の(一)ないし(五)のような特徴があり、極めて複雑な金融商品であること、すなわち、(一)ワラントとは、新株引受権付社債であるワラント債から社債部分を分離したものをいい、定められた価格(権利行使価格)で、一定期間内(権利行使期間)に、所定の株数を買い取ることのできる権利であり、転換社債や普通社債のように満期に償還されるものではなく、単に権利(株式)を売買できる権利にすぎないこと、(二)そして、ワラントの権利行使は権利行使価格が実際の株価よりも低くなければ意味がなく、かつ権利行使期間が経過すると無価値になること、(三)ワラントの権利行使期間が近づくと期待収益の尺度であるプレミアムが目立って減少する傾向があり、その意味ではワラント売買は期待観そのものの売買ということもでき、また、株価と比べて値動きが激しく、いわゆるハイリスク、ハイリターン商品であること、(四)ワラントの価格は、理論上権利行使価格と現実の株価から算定されるパリティによるが、実際の市場価格は前記のプレミアムが加わり、価格形成のメカニズムに他の金融商品にない特性があること、また、外貨建てのワラントについては、証券会社との相対取引となり、各証券会社が価格設定を行っていること、(五)ワラントの権利を行使するには、新たに株式購入資金を用意する必要があることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。

四1  前記一1の原告の年齢、職業、家庭環境、投資経験、投資目的等と、前記三のワラントの特徴にかんがみれば、証券取引について顧客に対し誠実義務を負う証券会社の従業員であるBとしては、原告にワラントの取引を勧誘するに当たり、原告が、ワラントの危険性について正しく理解することができるよう、(一)ワラントの意義及び仕組、(二)当該ワラントの権利行使価格、権利行使期間、権利行使による取得株式数、(三)価格形成のメカニズム並びに外貨建てワラントは証券会社との相対取引によること、(四)ワラントがいわゆるハイリスク、ハイリターンな商品であり、権利行使期間経過後は無価値となることについて十分説明し、原告がこれらについて的確に認識できるようにすべき義務があったものというべきである。

2  そこで、検討すると、甲第一一号証及び原告本人尋問の結果によれば、(一)Bは、原告に対し、昭和六三年八月一九日頃に本件(一)の取引を勧誘した時も、平成二年一月二六日頃に本件(二)の取引を勧誘した時も、ワラントの仕組、ワラントの価格形成のメカニズムやその要因、権利行使期間があること、権利行使期間が経過すると無価値になること等を全く説明せず、いずれも、電話で、本件(一)の取引を勧誘した時には、「マツヤデンキが外国でワラント債という債券を出すのですが、短期間でちょっと利が乗ると思いますから、買われたらどうですか。」、「何時売ったらよいかは、私がついていてしっかり教えますから、大丈夫ですよ。」等と、本件(二)の取引を勧誘した時には、「前のマツヤデンキと同じものが、新日鉄から出るから一口買ったらどうですか。日本一の会社ですからいいですよ。」と述べただけであったこと、この間の平成元年五月一日に、Bは、「外国新株引受権証券の取引に関する確認書」を持参して原告に署名押印を求めたが、この時もワラントについて説明しなかったこと、その結果、原告は、ワラントが満期に投下資金の償還される債券であると誤信して、本件各取引を行ったことが認められる。

もっとも、Bの陳述書である乙第一四号証には、昭和六三年七月二二日頃、Bが、原告の自宅で、銀行研修社発行の「最新金融商品ハンドブック」八八年版の「ワラント債」の部分のコピーとワラントに関する新聞記事のコピー等を原告に渡した上、原告に対し、ワラントとは、一定期間内に一定の価格で一定の数量の株式を買うことができる権利が付与された証券のことをいい、具体的に説明すると、新株引受権付社債の発行後にワラント部分と社債に分離されたワラント部分をいうこと、ワラントの価格は、理論上、株価に連動するが、変動率は株価に比較して大きくなる傾向があること、ワラントは、権利行使するのに新たに払い込みが必要となること、ワラントには権利行使期間があり、それが終了してしまうと無価値になってしまうこと、海外のドル建て商品であるため、為替の影響を受けること等を説明した上、同年八月一五日には、本件(一)の取引の目的であるマツヤデンキのワラントについて、権利行使価格が二二六六円であり、権利行使期間が西暦一九九三年八月四日まであることを説明した旨、本件(二)の取引を勧誘した時にも、再度本件(一)の取引を勧誘した時と同様に、ワラントは期限がある商品であり、権利行使期間が終了してしまうと無価値になってしまうこと、価格は株価に連動するが、株式よりも値段の動きが激しいことなどを説明した旨が記載されている。

しかし、Bは、同人に対する証人尋問においては、本件(一)の取引の目的たるマツヤデンキのワラントについて、権利行使の際に払い込み金額が幾らで、取得できる株数が幾らであるかといった右ワラントの権利の内容について説明しなかったこと、原告に交付したという書類の中にも、権利行使価格や権利行使する際に必要な払込金額が計算できる資料がなかったこと、ワラントの価格は、理論上権利行使価格と現実の株価から算定されるパリティによるが、実際の市場価格は前記のプレミアムが加わり、価格形成のメカニズムに他の金融商品にない特性があることも説明しなかったこと、本件(一)の取引の目的たるマツヤデンキのワラントについて被告が設定した価格の根拠も知らなかったこと、本件(一)の取引の時点で、その目的たるマツヤデンキのワラントの権利行使価格より現物の株価の方が安く、その時点でみれば、当該ワラントは、現実の株価より高い価格で株式を取得する権利になること等の説明もしなかったこと、Bが原告に交付したという「最新金融商品ハンドブック」八八年版の「ワラント債」の部分の記載には、ワラントの危険性についての記述が不十分であり、かつ、Bは、株価が値上がりするとワラントの価格が高まり、ワラントの時価も値上がりが期待できることなど同書のワラントの特徴に関する記述について、原告に説明しなかったことをそれぞれ自認している。そして、ワラントの危険性については、口頭で説明したとはいうものの、ワラントがハイリスク、ハイリターンの商品であると述べたというほかには、具体的な供述はなく、また、B自身、ワラントの危険性について、値動きが激しいという認識は持っていたが、ワラントという商品の持っている危険性と、投資信託等の金融商品が持っている危険性とはそれほど変わらないとの認識を持ち(後の証言で、文脈の取り方をはき違えたとして訂正しているが、採用できない。)、原告のようにそれまで転換社債、投資信託、外国証券等を取引している経験があれば、ワラントの危険性も判断できたと認識していたと供述するから、そもそもB自身がワラントの特徴や危険性に関し十分な理解認識がなかったというほかなく、右の事情と、前示のとおり、ワラントが極めて複雑な金融商品であることを併せ考えれば、Bが、口頭でもって、原告に対し、ワラントの特徴や危険性について十分な説明をしたということは極めて疑わしい。これらの事情や原告本人尋問の結果に照らせば、前掲乙第一四号証、証人Bの証言中、右認定に反する部分やBが原告に対しワラントに関する説明をしたとの趣旨に帰着する部分(Bが原告に対し本件各取引後その目的たるワラントの値動きを連絡していたとか、マツヤデンキのワラントについて利食いを勧めたという部分を含めて)は、採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

してみれば、本件各取引の際のBの勧誘行為は、証券取引に当たっての証券会社の誠実義務に反し、社会的相当性を欠くものであって、不法行為を構成するものというべきであり、その使用者たる被告は、民法七一五条により、本件各取引によって原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

五(一)  原告本人尋問の結果によれば、原告は、前示のようなBの違法な勧誘行為がなければ、本件各取引をしなかったものと認められるから、原告は、本件のワラントの購入代金として支出した二四三万一七二五円相当の損害を被ったものというべきである(なお、原告本人尋問の結果や証人Bの証言によれば、本件(二)の取引の目的たるワラントは、権利行使期間の経過により無価値になり、本件(一)の取引の目的たるワラントについても、ほとんどは権利行使期間の経過により無価値になったことが認められ、他方本件各取引によって、原告が何らかの利益を得たことを認めるに足りる証拠はない。)。

(二)  原告は、慰藉料を請求するけれども、特段の事情がない限り、財産権の侵害による不法行為については、財産権の回復により精神的苦痛も同時に慰藉されるものというべきであり、本件全証拠を精査するも、右の特段の事情を認めるに足りる証拠は見当たらない。

(三)  本件事案の内容、難易度、認容額その他本件の諸事情のもとでは、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、三〇万円と認めるのが相当である。

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求は、二七三万一七二五円と最終の不法行為の日である平成二年一月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その範囲で認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条、仮執行宣言につき同法二五九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋勝男)

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